この記事の結論
- 年末調整は、毎月天引きされた所得税を1年分まとめて精算する手続きだ。
- 1年目・独身・扶養親族なしなら、本人欄と基礎控除の欄を中心に確認すればいい。
- 令和8年分は税制改正分が12月にまとめて反映され、同じ条件なら還付方向に働きやすい年だ。
11月になると、医局の机の上に事務から茶封筒が置かれます。中には見たことのない紙が数枚と、「〇日までに提出してください」という付箋。当直明けの頭で開いて、扶養親族の欄と保険料の欄を眺めて、そっと閉じた——研修医1年目の自分がまさにそれでした。
結局そのときは、隣の学年の先輩に「名前と住所だけ書いて出せばいいよ」と言われて出しました。あとから調べたら、その助言はだいたい合っていて、少しだけ足りませんでした。1枚だけ、独身でも必ず出さないと損をする紙があったからです。
書類の名前と、自分がどこを埋めるべきかが分かれば、この封筒は10分で終わります。
年末調整とは:1年分の所得税を精算する手続き
年末調整は、毎月の給与から天引きされた所得税の合計と、1年分の正しい所得税額とのズレを精算する手続きです。国税庁も「源泉徴収された税額の年間の合計額と、年税額を一致させる精算の手続」と説明しています。
なぜズレるかというと、毎月の天引きがあくまで概算だからです。毎月の給与から引かれる所得税は「源泉徴収税額表」という表に当てはめて決めているだけで、その年に払った生命保険料も、ボーナスの額も、扶養する家族が増えたかどうかも織り込まれていません。1年が終わってから正しい額を計算し直し、払いすぎていれば還付、不足していれば追加徴収になります。
対象になるのは、原則として勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している人です。給与の収入金額が2,000万円を超える人など、一部は年末調整の対象外になります。研修医・専攻医のうちは、ほぼ全員が対象と考えて構いません。
大部分の給与所得者は、この年末調整だけでその年の所得税の納税が完了します。確定申告をしなくていいのは、病院が代わりにここまでやってくれているからです。
→ 確定申告が必要になるケースを知りたい人は確定申告って何?医師が必要になるケースだけ整理を読んでください。
11月に確認する書類は主に3種類
勤務先によって紙か電子か、当年分と翌年分のどちらをまとめて案内するかは異なります。扶養控除等申告書の本来の提出期限は、その年の最初の給与を受け取る日の前日です。11月は、すでに出した当年分の内容確認と、翌年分の提出を兼ねる勤務先が多くあります。
年末調整で確認する代表的な書類は、名前は長いものの次の3種類です。勤務先の案内を優先しつつ、それぞれ何のための書類かを先に押さえると迷う時間が減ります。
| 書類 | 何のための紙か | 1年目・独身の埋め方 |
|---|---|---|
| ① 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 扶養している家族がいるかを申告する | 本人欄を記入・確認する。扶養親族欄は自分の状況に合わせる |
| ② 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 | 基礎控除など、本人の所得に応じた控除を申告する | 独身でも提出が必要。左側の基礎控除申告書の欄を埋める |
| ③ 給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険・地震保険・iDeCoなどの控除を申告する | 控除対象の支払いがあれば記入する。なければ勤務先の案内に従う |
②の名前が長いのは、4つの申告書が1枚にまとまっているためです。令和7年分から「特定親族特別控除申告書」が加わって、さらに長くなりました。書く場所は用紙の中で区切られているので、自分に関係する欄だけ埋めれば大丈夫です。
なお、病院によっては同じ封筒に「翌年分の扶養控除等申告書」も一緒に入っています。①と見た目がほとんど同じで年分だけが違うので、提出前に右上の年分を確認してください。自分は1年目に、同じ紙が2枚あると思って1枚しか出さず、事務から電話をもらいました。
1年目・独身なら、まず本人欄と基礎控除を確認する
独身で扶養親族がおらず、保険料控除の対象になる支払いもない場合、実質的に計算が必要なのは②の左側だけ、というのが多くの研修医の実態です。
①の扶養控除等申告書は、扶養している家族がいなくても、氏名・住所・生年月日・世帯主との続柄などの本人欄を記入または確認します。マイナンバーは勤務先の管理方法によって記載を省略できる場合があるため、勤務先の案内に従ってください。実家暮らしでも、親の生活費を負担している場合や親の所得が低い場合は、扶養親族に該当する可能性があります。「実家暮らしだから空欄」と決めず、判断に迷ったら勤務先へ確認してください。
ここで注意したいのは、扶養親族がいない人でもこの申告書自体は提出しなければならない点です。提出しないと源泉徴収税額表の「乙欄」が適用され、毎月の天引きが高くなります。
③の保険料控除申告書は、生命保険、地震保険、iDeCo、自分で払った社会保険料などの控除を受ける人が記入します。対象になる支払いがない場合に、名前だけ書いて出すか、提出自体が不要かは勤務先の運用によるため、案内を確認してください。
問題は②です。合計所得金額が2,500万円以下の多くの給与所得者は基礎控除を受けられますが、年末調整で基礎控除を受けるには基礎控除申告書の提出が必要です。国税庁も「申告書の提出漏れにより基礎控除を受けることができないこととならないようご注意ください」と注意喚起しています。「自分には控除なんて関係ない」と思って白紙で出すのが、いちばんもったいないパターンです。
紙の申告書なら、基礎控除の欄は次の順で進めます。
- 本業と外勤を含む、その年の給与収入の見込額を書く
- 用紙裏面の表や勤務先のシステムで給与所得の見積額を求める
- 合計所得金額に合う区分へチェックし、基礎控除額を書く
額面年収500万円で給与以外の所得がなければ、給与所得の見積額は356万円、基礎控除額は104万円です。電子申告では自動計算されることもあるため、画面の案内を優先してください。
2年目以降になると、少し楽になる可能性があります。前年に同じ勤務先へ出した扶養控除等申告書から変更がない場合、勤務先の指示のもとで「簡易な申告書」として、氏名・住所、必要に応じてマイナンバーと「前年から異動なし」の記載だけで済ませられる仕組みがあるからです。ただし前年の提出が前提なので、その年に入職した1年目は使えません。この扱いは病院ごとに違うので、事務からの案内に従ってください。
令和8年分は改正があり、12月の還付が例年より大きくなりやすい
2026年(令和8年)分の年末調整は、例年と少し事情が違います。令和8年度の税制改正で基礎控除が引き上げられ、給与所得控除の最低保障額も65万円から74万円になりました。改正は原則として令和8年12月1日施行で、令和8年分以後の所得税に適用されます。
基礎控除の額は合計所得金額によって変わります。
| 合計所得金額 | 収入が給与だけの場合の収入金額 | 令和8・9年分 | (参考)改正前の令和8年分 |
|---|---|---|---|
| 132万円以下 | 206万円以下 | 104万円 | 95万円 |
| 132万円超 336万円以下 | 206万円超 475万1,999円以下 | 104万円 | 88万円 |
| 336万円超 489万円以下 | 475万1,999円超 665万5,556円以下 | 104万円 | 68万円 |
| 489万円超 655万円以下 | 665万5,556円超 850万円以下 | 67万円 | 63万円 |
| 655万円超 2,350万円以下 | 850万円超 2,545万円以下 | 62万円 | 58万円 |
額面年収400万〜650万円台なら、多くが基礎控除104万円の区分に入ります。改正前からの増加額は給与収入によって16万円または36万円です。後の試算で使う額面年収500万円なら、改正前の68万円から104万円へ36万円増えます。
ここが今年ならではの話で、国税庁は「令和8年11月までの給与等の源泉徴収事務に変更は生じません」と明記しています。つまり1月から11月までの天引きは改正前の税額表のままで、12月の年末調整ではじめて引き上げ後の基礎控除で1年分を計算し直し、改正分をまとめて精算します。他の条件が同じなら還付方向に働きやすい一方、扶養親族の異動などがあれば追加徴収になることもあります。
金額の感覚をつかむために、額面年収500万円・独身・扶養親族なしで計算してみます。給与所得控除を引いた給与所得は356万円、社会保険料を年75万円と仮定すると、課税所得は改正前なら213万円、改正後は177万円です。所得税の速算表に当てはめると、およそ11.6万円と8.9万円になり、差は約2.7万円でした。復興特別所得税と端数処理を省いた単純計算で、社会保険料の額や各種控除の有無で変わります。あくまで桁の目安として見てください。
もうひとつ、扶養親族や同一生計配偶者の所得要件も58万円以下から62万円以下(収入が給与だけなら123万円から136万円)に引き上げられました。この改正は令和8年12月1日以後に支払う給与から適用されるため、改正によって新たに扶養親族の要件を満たすことになった家族がいる人は、扶養控除等(異動)申告書を出し直す必要があります。学生のきょうだいやパート勤務の配偶者がいる人は、収入を一度確認してみてください。
2026年8月21日時点で、扶養控除等申告書、基礎控除申告書、保険料控除申告書の令和8年分PDFは公開済みです。一方、基礎控除申告書と保険料控除申告書の入力用PDF・記載例は準備中で、国税庁の「年末調整がよくわかるページ」も令和7年分のままです。実際の用紙や電子申告の方法は勤務先から案内されるため、記入時は勤務先の説明を優先してください。
書き忘れると損するもの
控除証明書が手元にあるのに③の保険料控除申告書へ書き写さないと、その分の控除は受けられません。年末調整で取りこぼされやすいのはこのあたりです。
- 生命保険料控除:10月頃に保険会社から控除証明書のハガキが届きます
- 地震保険料控除:賃貸で火災保険に入っている場合、地震保険部分が対象になることがあります
- iDeCoの掛金:「小規模企業共済等掛金払込証明書」という別の証明書で申告します
- 自分で払った社会保険料:入職前の国民年金保険料を自分で払った年などが該当します
医師1年目で見落としやすいのがiDeCoです。生命保険料の証明書とは別の封筒で届くうえ、②③どちらの紙に書くのか迷いやすいところです。iDeCoの掛金は保険料控除申告書の「小規模企業共済等掛金控除」の欄に書きます。
控除の上限額や新制度・旧制度の区別は保険の種類によって違うので、証明書が届いてから確認するのが確実です。
→ 研修医に生命保険はいらない?独身で考える判断基準
→ iDeCoは研修医に必要?NISAとの優先順位と3つの注意点
年末調整で終わらない人
年末調整は「病院が把握できる範囲」の精算です。病院が知らないお金の動きがある人は、翌年に確定申告が必要になる場合があります。
| 状況 | どうなるか |
|---|---|
| バイト(外勤)で勤務先が2か所以上ある | バイト先の給与は本業の年末調整に含まれない。年末調整されなかった給与の収入金額と、給与・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要 |
| ふるさと納税でワンストップ特例を使わない | 確定申告で寄附金控除を申告する |
| 医療費控除を使いたい | 年末調整では扱えないので確定申告する |
| 住宅ローン控除の1年目 | 1年目だけ確定申告。2年目からは年末調整でできる |
バイトを始めた年は特に注意したいところで、確定申告をする年はワンストップ特例で申請済みの寄付も無効になり、申告に含め直す必要があります。
所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要になる場合があります。外勤収入がある人は、勤務先から届く源泉徴収票を保管し、自治体の案内も確認してください。
→ ふるさと納税はワンストップ特例と確定申告どっち?研修医の答え
還付は12月か1月の給与に乗る
精算の結果は、多くの病院で12月の給与に反映されます。1月払いになる病院もあります。
給与明細を見ると、控除欄や支給欄に「年末調整還付金」「年調過不足額」といった名前で載っています。12月の手取りがいつもより多い月は、ボーナスではなくこれが理由かもしれません。逆に、扶養親族が年の途中で減った場合などは追加徴収になり、手取りが減ることもあります。
→ 明細のどこを見るかは研修医の給与明細はここだけ見ればいい【最初の5チェック】にまとめています。
もうひとつ覚えておきたいのが住民税です。年末調整で確定した所得は市区町村にも報告され、翌年6月からの住民税に反映されます。所得税の還付とは時期がずれるので、6月に手取りが変わっても慌てないでください。
→ 住民税はいつから?研修医2年目の6月に手取りが急減する理由
まとめ
- 年末調整は、毎月概算で天引きされた所得税を1年分まとめて精算する手続き
- 確認するのは主に3種類。1年目・独身でも①と②は必要で、③は控除対象の支払いがある場合に記入する
- 令和8年分は基礎控除の引き上げが12月にまとめて反映され、同じ条件なら還付方向に働きやすい
- バイト・ふるさと納税・医療費控除がある人は、条件によって確定申告が必要になる
今日やることは1つだけです。封筒の中の②「基礎控除申告書 兼 …」を探して、給与収入の見込額と基礎控除額が空欄のままになっていないか確認してください。まだ封筒が来ていない人は、10月頃に届く保険会社の控除証明書を捨てないようにしておくと、11月が楽になります。
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- 年末調整だけで終わるか知りたい人へ:確定申告って何?医師が必要になるケースだけ整理
- 還付が明細のどこに載るか確かめたい人へ:研修医の給与明細はここだけ見ればいい【最初の5チェック】
- 翌年6月の住民税まで見通したい人へ:住民税決定通知書の見方【研修医・専攻医が最初に見る3か所】
- 税金・手取り関連の記事をまとめて確認したい人は、研修医の税金・手取りまとめ【給与明細から確定申告まで】も参考にしてください。
出典(確認日:2026年8月21日)
- 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」
- 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」
- 国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和7年分)」
- 国税庁「各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)」
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務相談に代わるものではありません。控除の可否・税額・還付額は個人の状況により異なります。記載した試算はいずれも前提を置いた単純計算であり、実際の金額を保証するものではありません。制度・様式・期限は変更される場合があるため、最新の情報は国税庁の公式サイトまたは勤務先の事務担当・税務署・税理士にご確認ください。記載内容は2026年8月21日時点の確認に基づきます。

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